でんぱ組.inc を聴いてみた

でんぱ組.incといえば、もっぱらメンバーの一人であるところの「最上もが」のおっぱいを通じて知るのみだったが、どうやら歌って踊るアイドルグループだった。ということで今更ながら楽曲を聴いてみた。

あの「 もふくちゃん」のレーベルから出ているアイドルということで、秋葉原を根拠地とし、歌う曲はオタク的なモチーフをタイトルや歌詞に散らばめている。曲調も電子音を多用してぎゅんぎゅんと展開されていくいわゆる「電波ソング」風の物も多い。


でんぱ組.inc「サクラあっぱれーしょん」MV - YouTube

しかし、曲の全てを電波ソング にしてしまわず、一つの曲の中にも「正統派アイドル」的な部分、「萌え」的な部分、「電波」的な部分が混在しているのがユニークだった。

それは歌い方にしてもそうだった。


でんぱ組.inc「ファンシーほっぺウ・フ・フ」MV - YouTube

この曲は比較的スローテンポで電波的要素はあまり無い曲だが、それでも曲中アイドルっぽく歌っている部分とアニソンを歌う声優っぽく歌っている部分が微妙に分かれている。特にコーラス部などは「萌えアニメ」的な歌われ方だ。

曲によっては完全にアイドルになりきっているものもあれば、逆にまるまるキャラソンのように歌っている曲もあり、その按配は曲によって少しずつ異なる。それが聴きどころであるように感じた。

 

オタクを歌う当人たちもれっきとしたオタクであるらしく、Wikiにそれぞれのオタステータスが書かれている。驚いたことに、各人絶妙にオタクジャンルが異なり、決してキャラがかぶらないように配慮されているところが凄い。アイドルなどでオタクを公言することは、世のオタクたちの無限の審査に曝されることを意味するので、「本物」でない限り、毎日地雷原を歩くようなものである。

ひとたび彼らのチェックに引っ掛かると、「このにわかが…」と唾棄されTwitterは瞬時に炎上することとなる。しょこたんなんかもそれで何度も自爆しているのは周知の通り。でんぱ組においてもそれこそオタクアイドルユニットのわけだから、にわか扱いされることは存在意義にすら関わる。ちゃんとオタクしてないといけない。

 

しかしガチオタであるらしい彼女らは、一方でオタク特有の一般人に対しての負い目や鬱屈した感情を抱えていた過去を持つらしく、ある曲ではそれがそのまま歌われている。作詞作曲はヒャダインでおなじみの前山田健一


【生きる場所なんてどこにもなかった】でんぱ組.inc「W.W.D」Full ver. - YouTube


でんぱ組.inc「WWD Ⅱ」MV【マイナスからのスタート、やっぱキツい!?】 - YouTube

前者はメンバーの過去、後者は今を歌にしているらしい。

アイドルの曲でメンバーの個人的な体験や心情をそのまま曲にしてしまう例はなかなか無い。告白小説ならぬ、告白ソングというべきか。

ここでのポイントは、メンバーの個人的な体験や心情を展開させて、やがて「でんぱ組.inc」というアイドルユニットそのものを、それぞれの自己実現の為の居場所として歌うその自己言及性にある。アイドルであることを言及する歌は他にも例えばアイドリング!!!の『職業:アイドル』などにあるが、そこで歌われているのは抽象化された「一般的なアイドル」の生活と意見である。決してメンバー個人個人まで掘り下げられてなどいないわけで、あくまでステレオタイプなイメージを歌っているに過ぎない。それが普通のアイドルソングというものだ。

【公式】アイドリング!!!「職業:アイドル。」PV - YouTube

個人個人の私的な、半ばトラウマに近いような過去を引きずりだして詞を作り歌にする。これを普通のアイドルでやったら、まずファンの理解を得られず引かれるだろう。でんぱ組の場合、そこで語られるのが「オタク」絡みの事柄であり、彼女たちのステータスとマッチしているからこそ、ギリギリ可能な芸当と言える。

とは言え、前山田健一もなかなかどうして難儀な歌を歌わせるものだ。